【スコットランド自治政府前首相、トランプ氏に懸念を表明】ゴルフ場開発問題

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【スコットランド自治政府前首相、トランプ氏に懸念を表明】ゴルフ場開発から核のボタンを押せるまで

ドナルド・トランプ(イラスト・木村邦彦)

「おじさんって、ほんとゴルフが好きよね」と語るのは東京で働くキャリアウーマンの熊理さん(仮名・40代)。私の友人だ。彼女は続けて言った。

「週末になると仕事場のおじさんたちは接待ゴルフの話ばかりしている」

珍しい生き物を見たかのように面白そうに話す。

ゴルフ好きのおかしなオッサンといえば、私も1人知っている。16年米国大統領選挙で旋風をまき起こしているドナルド・トランプ氏だ。

「不動産王」で知られるトランプ氏は、周知のとおりゴルフ界でも王様[1]である。今年(2016年)、英国の公共テレビ局「チャンネル4」が製作した『ドナルド・トランプのおかしな世界』(The Mad World of Donald Trump) [2]ではゴルフリゾート建設のトラブルを伝えている。

「この無茶なオッサンが大統領になったら、核のボタンを押しかねない」

トランプ氏の「無茶っぷり」知るスコットランド自治政府前首相(2007-2014)は心配する。アレックス・サモンド氏だ。

話は十年前にさかのぼる。06年、トランプ氏はスコットランドで、ゴルフリゾート開発を発表した。建設予定地には美しい砂丘があった。開発すれば数千の雇用を生み出せると、スコットランド自治政府に持ちかけたのだった。派手な投資話に目がくらんだ自治政府は砂丘の維持よりも開発を選んだ。北海油田に頼らない経済基盤を築きたいという思惑もあった。

工事がはじまると、トランプ氏は沿岸に巨大な土手を作った。海が見えなくなるほどの大きさだ。外部からは何をしているか見えない。近隣住民には土地売却を迫り、拒否されると水道や電話といったインフラを止めた。

罵倒で開発を進めようとするものだから、円満にことが進まない。住民たちはトランプ氏を「自己愛性人格障害者」と手厳しく呼んだ。サモンド氏はトランプ氏に「商業開発のために強引に土地を買い占めてはいけない」と説得する羽目になった。かくして、自治政府とトランプ氏の関係も悪化していった。

一事が万事こんな調子なので、ゴルフリゾートは完成しなかった。投資話や雇用の創出といったトランプ氏の口車に乗せられた結果、スコットランドは建設予定地にあった美しい砂丘を失ってしまった。サモンド氏は米国大統領選の「トランプ旋風」を苦々しい思いで見つめている。

トランプ氏はいまメキシコとの国境に壁の建設を呼びかけているが、スコットランドで作った「土手」と重なって見えてくる。

取材するジャーナリストがサモンド氏に質問する。「もしも、トランプ氏が大統領になったらどうしますか?」。彼は答えた。

「実は、私は南極行きの航空券を2枚予約しているのです。放射能の影響が一番及ばないのが、南極なのでね」

「まるで英国流のジョークだ」と私は苦笑してしまった。しかし、ジョークと言い切れない現実味がある。大統領が核のボタンに最も近い存在だ。飛ぶ鳥を落とす勢いのトランプ氏は共和党予備選での勝利して、いよいよ大統領候補指名が確実になった。

トランプ氏のふるまいを知った妻が言った。「私たちも北極行きの航空券買っておこうかしら」。妻よ、航空機チケットを買うのなら、やっぱり南極大陸行きだね。北極に大陸はないんだもの。


【脚注】